ベンチに腰をおろし、試合開始の笛を聞くその背中は細く、しかし、獰猛だった。
当時、大宮は前線に足元のボール扱いに長けたラファエルとイ・チョンスを擁しており、
90分の戦略を考慮し、背番号9をベンチに据える事も多かった。
個人的には石原直樹の魅力に憑かれていた。あんな怪物を観たのは初めてだし(笑)
でも、先制点を奪うにはラファとチョンスの技術や感覚こそがチームに必要だと思った。
同時に、追加点を奪うには直樹以上の兵器は日本に存在しないとも信じていたけど。
直樹はボールよりも速く走るし、クロスよりも高く飛ぶ。これは比喩では無く、日常の光景だ。
だからこそ、ボールプレイの周辺では異物であり、他者である。
(実のところ、これは広島で活躍している現在もそれ程変わっていないけれど)。
決して、直樹の実力が二人に劣っていた訳でもない。
直樹以外のフォワードは先発以外で活かせる状況が少なかったし、誤解を恐れずに言えば、
直樹よりも攻撃力の劣る市川を先発としてピッチに送る時期もあり、逆説的にチームにとっての
直樹の存在の大きさは明らかだった。
現に当時の指揮官である鈴木監督も「どの選手を残すのが有効か考えるようになった」、
「石原が2枚いれば良いがそういうわけにはいかないし」とアツい言葉を残している。
ただ、強さが足りないチームは、勝利のために猛獣を檻の中に残した。
しかし現在、チャンピオンチームにおいて90分必要とされる選手へと成長した。
相手ディフェンスに身体を預け、エースのゴールを導く。
先制点を奪う為に必要な選手となった。
鷹の様に舞い、相手の肩越しにヘディングを叩きつけ、皆川のプロ初得点をアシストした。
相変わらず追加点を奪う為には必要な選手で在り続ける。
正直、中断明けは連戦の疲れも濃く、本調子とは言い難い動きかもしれない。
それでも、その力を90分間ピッチで表現出来るプレイヤーへ成長した。
守備ではサイドバックへプレッシャーを与え続け、ボールを奪った瞬間には身体を張って
ボールを守り、裏への侵入で中盤のスペースを作り出す。
ジャイアントステップはサイドでのボールプレイや味方の使い方で数多く感じる。
ここ2戦でも既にアシストを重ねているし、今日も皆川のシュートに繋がる右サイドでの崩しに
思わず声を上げた。40歳になっても成長するんじゃねえか直樹は。
明日も直樹はピッチ上で二つの笛を聞く。